積層する時間 〜本堂工事の現場から〜

積層する時間 〜本堂工事の現場から〜

これまでの400年、これからの400年。

2017年、いよいよ本堂素屋根の檜皮葺替工事が始まり、本堂の姿にも変化がありました。
改修工事に携わる京都府教育庁文化財保護課主査・島田氏と当山執事補・大西英玄が改修工事と寺院の未来について語らいました。

2017年6月時の本堂の姿

大西:先日、阿弥陀堂と奥の院の改修が終盤を迎えて美しい彩色や漆塗が蘇りました。また、本堂では檜皮葺替工事が始まりました。舞台ごと素屋根ですっぽりと覆われましたね。

島田:改修期間中も参詣が可能ですから、いつもと違う清水寺の風景に驚かれている方も多いでしょうね。素屋根の内側から眺める舞台からの景色はかなり貴重ですよ。前回の本堂屋根の葺き替え工事は半世紀前の昭和42年(1967)ですから。

大西:ご参詣の皆さまにはご不便もおかけしています。清水寺は1200年の歴史を持つ「文化遺産」であると同時に、観音さまの教えを伝え続ける「現在進行形の仏教寺院」でもあります。今回の改修では、一見、相反するふたつの役割を社会にご理解いただくことの重要性をあらためて実感しています。また、私たち僧侶にとっても寺院のあり方を見つめなおす良い機会でした。

島田:清水寺では将来の改修のために植林活動に取り組んでおられますね。

大西:現在でも材木の確保にはかなり苦労すると聞きますから、取り組みを始めるのが遅すぎた、という反省もあります。2000年から京北町(右京区)、花背(左京区)、舞鶴市の3ヵ所の山で欅を育てています。あと少しで樹齢20年というところです。

島田:舞台下の柱は樹齢300〜400年ですから長い道程ですね。欅材の耐久年数は樹齢の倍程度と言われています。現在の本堂は寛永6年(1629)の大火災で焼失した後に再建されたものですから、建材としての寿命はあと400年。いま育てている若木が400年後の大改修に使われるわけですね。

大西:清水寺が変わらぬ姿であり続けるためにできることはまだあるはず。皆さまから拝観料としてお預かりしたご浄財を、文化財の維持という方法で社会に還元していくのも私たちの大切なつとめですから。

島田:工期も終盤を迎え、いよいよ最後の難関である本堂の屋根葺き替えに向けての作業が始まりました。作業をおこなう職人や修理技術者も日々、緊張感が増しています。

大西:落慶がいまから待ち遠しいですが、とにかく最後まで皆さんがご無事で改修を終えられることが一番。どうかご健康にお気をつけて作業をなさってください。

島田:ありがとうございます。

檜皮の葺き替え作業の様子